診断型組織開発と対話型組織開発|組織開発探究シリーズ⑤

前々回の記事では、組織開発のさまざまな手法に共通する「組織開発の3つのステップ」を紹介しました。

今回は、さらにもう一歩踏み込んで、組織開発の2つのアプローチについて紹介したいと思います。

組織開発探究シリーズ第5回のテーマは「診断型組織開発と対話型組織開発」です。

今回は、以前にも紹介した「組織開発の探究」と、こちらの「対話型組織開発」という書籍を参考にさせていただきました📖

こちらの書籍の著者でもある、ジャルヴァース・ブッシュとロバート・マーシャクは、組織開発の進め方は「診断型組織開発」と「対話型組織開発」に大別できるとしています。

彼らは、従来型の組織開発のアプローチに「診断型組織開発」、1990年代以降に登場してきた、比較的新しいアプローチに「対話型組織開発」というラベルをつけました。

それでは早速、それぞれについて見ていきましょう💡

「診断型組織開発」とは

診断型組織開発は、最初に何を目指すかを合意し、次にデータ収集を行い、分析してその結果を関係者にフィードバックしていきます。フィードバックをきっかけとして関係者が対話を行い、現状での課題を共通に認識した上でアクション計画をする、といった流れです。

出典:組織開発の探究

「診断型組織開発」は、上記の説明にもあるように、「データ収集」「データ分析」「フィードバック」という「診断のフェイズ」が入るアプローチです。

ブッシュとマーシャクは、「診断型組織開発」の典型的な進め方として、NTL Instituteが提唱するモデルである「OD Map」を挙げています。
NTL Institute:アメリカでの組織開発の発展に寄与してきた組織。NTLは、「National Training Laboratory」の略。

「OD Map」では、組織開発の進め方として、8つのフェーズを想定しています👇

インタビュー、アセスメント、観察などを通して、現状に関するデータを収集し、収集されたデータを整理・分析し、組織の現状について「見える化」されたものをクライアントにフィードバックします。

ただし、組織の現状について、「診断の結果はこうでしたよ」と単に伝えるだけでは、組織は変わりません。

組織に変革をもたらすためには、「その結果を見てどう思うか」について、メンバー同士で対話をすることが重要です。

「診断型組織開発」は対話を行わず、「対話型組織開発」では対話が行われると勘違いされることがありますが、どちらのアプローチにおいても、対話は組織開発の基本として大切にされています。

組織開発の3つのステップ」と照らし合わせると、診断のフェイズを通して、組織の課題を「見える化」し、関係者一堂で可視化された課題について「ガチ対話」を行い、組織の現状の課題を共通に認識した上でアクション計画を行う、まさに「未来づくり」をしていきます。

「対話型組織開発」とは

対話型組織開発といわれているものには、診断のフェイズがなく、基本的にはまず、対話の場をデザインするためのコアチームをつくり、そのコアチームで対話の場を計画します。そして、関係者が一堂に会して対話が行われ、現状について語り合うことで見える化をして、共通に目指す将来を合意し、未来に向けた行動計画をしていきます。

出典:組織開発の探究

「対話型組織開発」は、最近の組織開発のアプローチの中で、「データ収集」「データ分析」「フィードバック」という「診断のフェイズ」がないものを指します。

「診断型組織開発」では、私たちのような組織開発実践者が「診断のフェイズ」を通して、当事者の代わりに現状の把握を行いますが、「対話型組織開発」では、当事者が「対話」を通して、現状を把握します。

「対話型組織開発」の基本的な進め方はこちらです👇

コアチームによってデザインされた、対話イベントの場において、関係者一堂が対話を通して組織の現状を把握し、 前提や考え方が異なるメンバー同士がお互いの共通性を見出し、目指したい共通の将来像を合意し、その未来の実現に向けた行動計画をしていきます。

そして、「診断型組織開発」が現状からありたい状態に向けての期間限定的で一方向的な変革だとすると、「対話型組織開発」は継続的で循環的な変革を目指します。

また、「対話型組織開発」にはさまざま手法がありますが、代表的な手法として、AI(Appreciative Inquiry)とフューチャーサーチがあります。

AI(Appreciative Inquiry)とフューチャーサーチは、用いられるワークに共通点が存在しており、原理にもいくつかの類似性がありますが、理論的背景は別物である、といわれています。
(参考:中村和彦(2014)『対話型組織開発の特徴およびフューチャーサーチとAIの異同』)

同じ「対話型組織開発」の中でも、手法による違いはありますので、上図の流れは、あくまで「基本的な進め方」として、参考にしていただければと思います。

AI(Appreciative Inquiry)は、私たちも重点的に探究しているアプローチですので、また改めて取り上げたいと思います。

「診断型組織開発」と「対話型組織開発」の違い

ここまで「診断型組織開発」と「対話型組織開発」のそれぞれの概要や基本的な進め方について見てきました。

先ほどは、「診断型組織開発」と「対話型組織開発」の2つのアプローチは、「診断のフェイズ」があるかないかという進め方の違いがあるという説明をしました。

ただし、ブッシュとマーシャクによると、これは本質的な違いではなく、違うのは2つのアプローチのマインドセットであると主張しています。

ブッシュとマーシャクは、「診断型組織開発」には、組織の現状は調査によって客観的に測定できるという前提と、現状からありたい姿に向けた期間限定的で一方向的な「プランド・チェンジ(planned change: 計画された変革)」という前提があると指摘しました。

それに対して、「対話型組織開発」は、社会構成主義に基づいており、現実は客観的な調査によって捉えられるわけではないという前提があります。組織の変化とは、対話を通して、お互いが話す言葉や意味づけの仕方が変わることだと捉えています。

聞き慣れない用語や表現もあるかと思いますが、「診断型組織開発と対話型組織開発の前提の違い」について、図にまとめたものがこちらです👇

こちらの図をもとに要点を説明すると…

「診断型組織開発」は、「個人の主観ではなく、客観的な事実を重視し、真実は科学的な手法で明らかにできるものだ」という客観主義の考え方にもとづいています。組織の課題も科学的な方法で発見することができ、その客観的事実としての課題を対話によって解決しようという考え方です。

一方、「対話型組織開発」は、客観的な調査によって発見されるような唯一無二の真実というものは存在せず、「私たちがどのように現実を捉えているかは、私たちの物の見方や語られ方によって社会的に構成される」という社会構成主義の考え方にもとづいています。対話を通して人々が現状について認識している現実に変化が起き、お互いが話す言葉や意味づけの仕方が変化することが、組織の変化であるという考え方です。

いまはじめて「社会構成主義」に触れた方には、「???」という感じかと思いますので、こちらの説明も引用したいと思います👇

社会構成主義とは、「words create world(言葉が世界をつくる)」という言葉で示されるように、人々にとっての現実はその場で語られる言葉によって構成される、という考え方です。例えば、「うちは風通しの悪い職場でね」などと言うことがあります。しかし、実際には「風通しが悪い職場」という真実がそこにあるわけではありません。「うちの職場ってなかなか物が言えないよね」「みんなどこか遠慮しているよね」といったことが語られることによって、人々の認識の中に構成されるのが「風通しの悪い職場」です。このように社会構成主義では、そこに存在する現実ですらも、人々によって語られ、意味づけられることで、人々にとって現実として知覚されることを主張します。

出典:組織開発の探究

なんとなく「社会構成主義」へのイメージはつかめてきましたでしょうか??

「対話型組織開発」について本質的に理解するためには、「社会構成主義」への理解は欠かせません。「社会構成主義」の考え方を理解できると、「診断型組織開発」と「対話型組織開発」の2つのアプローチの本質的な違いを理解することができるようになります。

「社会構成主義」については、また改めて取り上げたいと思いますが、ご自身で学んでみたいという方には、ガーゲン夫妻が社会構成主義の入門書として書いた「現実はいつも対話から生まれる」という本がオススメです📖

また、上図の話に戻ると、先ほども述べたように、「診断型組織開発」が現状からありたい状態に向けての期間限定的で一方向的な変革だとすると、「対話型組織開発」は継続的で循環的な変革を目指します。

環境の変化があっても、現在のように複雑で予測不能な状態ではなかった当時は、「診断型組織開発」のような管理された計画的なアプローチが適していました。

それから時代は変化し、現在のような予測不能で変化が大きい環境の中で、絶えざる革新が必要とされる背景があり、「対話型組織開発」のようなアプローチが生まれてきました。

以上が、「診断型組織開発」と「対話型組織開発」の違いについての解説でしたが、いかがでしたでしょうか?

少し難しい用語や表現が多くなってしまいましたが、「組織開発の探究」の中の「手法のベースにある哲学や理論に関する理解をすっ飛ばして、形式的に手法だけを模倣しても、組織を本当の意味で変革しうるような、深い対話を導き出すことは、極めて困難です」というメッセージにもあるように、表面的な手法だけではなく、背景にある哲学や理論も含めて理解することはとても重要なことだと思います。

組織開発は実践者のマインドセットが重要

ここまで「診断型組織開発」と「対話型組織開発」のそれぞれの概要と、2つのアプローチの違いについて紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?

アカデミアでは、「診断型組織開発」と「対話型組織開発」は別々の手法に位置づけられていますが、実際の組織開発の現場では、2つの手法を組み合わせ、ちゃんぽんされて実施されることがほとんどだろうといわれています。

ブッシュとマーシャクも、実践では2つの型をミックスしたり組み合わせることもあるだろうと述べています。

大切なことは、流派にこだわって手法を選択することではなく、組織がより良い状態になるために最善を尽くすこと、まさに、「あの手この手を使って組織をworkさせる」ことが大切です。

ただし、あの手この手を使う際にも、気をつけたいことがあります。

それは、「組織開発の探究」の中でも述べられていますが、「マインドセットとして、自分は診断型と対話型のどちらのマインドセットに立脚しているのか?」ということに自覚的でいるということです。

マインドセットについての説明はこちらです👇

組織開発を実践する専門家は、こうした思想的基盤の違いに自覚的でいる必要があるでしょう。マインドセットとして、自分はどちらのマインドセットに立脚しているのかと。

例えば、組織風土について真実が1つあり、それを正確に診断し、現場に返すことによって、変革のきっかけをつくる、という(診断型の)マインドセットを持っているのか。それとも、人によって見方は異なり、現実の認識は1人ひとりで違う、ということを認め、対話を通して探求をし続け、その中で意味が生成され、創発的に変化が生まれる、という(対話型の)マインドセットで実践をしているのか、などです。ブッシュとマーシャクが「組織開発は(実践者の)マインドセットが重要である」と述べているのは、このような事情があるからです。

出典:組織開発の探究

組織をworkさせるために、あの手この手を使う際にも、自分は「診断型組織開発」と「対話型組織開発」のどちらのマインドセットに立脚しているのかを自覚していることが重要ということですね。

ちなみに、私たちは「対話型組織開発」のマインドセットに立脚し、必要に応じて診断も含めた、さまざまな手法を活用し、組織がより良い状態になるために最善の働きかけをするというスタンスです。

以上、組織開発探究シリーズの第5回「診断型組織開発と対話型組織開発」でした。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

FLYHIGH Lab.
代表  小田桐 翔大